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大阪地方裁判所 平成2年(モ)53128号 判決

申請人

新大阪貿易株式会社

右代表者代表取締役

田川公造

右申請人代理人弁護士

松川雄次

冨島智雄

東川昇

被申請人

中西靜雄

右被申請人代理人弁護士

若松芳也

主文

大阪地方裁判所平成二年(ヨ)第九〇一号競業禁止仮処分申請事件につき、同裁判所が平成二年九月一一日にした仮処分決定を認可する。

訴訟費用は、被申請人の負担とする。

事実および理由

第一申立て

一  申請人ら

主文同旨

二  被申請人

1  主文掲記の仮処分決定を取り消す。

2  申請人の本件申請を却下する。

第二事案の概要

一  争いな(ママ)い事実等

1  申請人は、印字機および各種チケット、ラベルの製造販売等を業とする株式会社である(争いがない。)。

2  被申請人は、昭和五一年三月一日、申請人に就職し、営業課長として、昭和六三年九月以降は営業部長として、勤務を続けた(争いがない。)。

3  被申請人は、右就職時に申請人との間で締結した雇用契約において、被申請人が申請人を退職した場合は退職後三年間に限り、申請人かあるいはその親会社である株式会社タカオカ(以下、タカオカという。)かのいずれか(両者のうちのいずれであるかは争いがあるので、後に認定する。)が取り扱う商品の販売をしないなどの競業避止義務を負うことを特約した(右商品取扱いの主体の点を除いて争いがない。)。

4  被申請人は、平成二年二月二八日に申請人を退職した(争いがない。)。

5  被申請人は、右退職当日、リッツジャパン株式会社(以下、リッツジャパンという。)を設立し、以後リッツジャパンを経営して商品販売等の営業をしているが、それが右3の特約に反するかどうかなどについて申請人との間に紛争を生じた(〈証拠略〉)。

二  主要な争点

1  被申請人が申請人を退職した後の三年間について販売をしないことを約した商品は、申請人の主張のように申請人が取り扱う商品か、被申請人主張のようにタカオカが取り扱う商品か。要するに、被申請人が、退職後、タカオカの取り扱う商品をタカオカの得意先に販売することさえしなければ、申請人の得意先に販売しても、右特約に反することにはならないといえるか。

2  右のような競業避止義務負担特約は、職業選択の自由、生存権を保障した憲法の規定に反しないか、民法九〇条の定める公序良俗に違反しないか、企業秘密と無関係な商品の第三者に対する販売行為を禁じ、リッツジャパンの公正な取引行為を間接的に制限してその公正な取引競争を阻害し、一般消費者の利益を損なうものとして、独占禁止法に違反しないか。右特約は、これら憲法、法律の規定に反して無効とならないか。

3  本件において保全の必要があるか。とくに、被申請人は、リッツジャパンによって、現在、申請人の取り扱う商品とは別の商品を販売しているのではないか、そのため、被申請人の現在の商品販売行為を差し止める必要はないのではないか。また、リッツジャパンの得意先がリッツジャパンとの取引を継続することを希望し、申請人と取り引きをするつもりがないとすれば、被申請人のリッツジャパンによる商品の販売行為を差し止める必要はないというべきではないか。

第三争点に関する判断

一  争点1について

前記第二の一の事実と疎明(〈証拠・人証略〉)によると、次の事実が認められる。

1  申請人は、被申請人を採用したさい、親会社であるタカオカが用いている「雇傭規約」という表題の、各条項を不動文字で印刷した契約書用紙を利用して、被申請人と、雇用契約を締結した。この契約書の一〇項に記載されている競業避止義務負担特約条項は、具体的には、「新大阪貿易株式会社の社員である限り、かつ社員の地位を喪失後、三年間に限り自から直接又は間接的に、若くは他の如何なる個人又は会社を通じて、(株)タカオカで取扱っている商品、製品に関し、競合(同一他業者)する商品を製造、組立、取扱い若くは販売してはならない。」というものであるが、この条項の冒頭の「新大阪貿易株式会社」というのは、不動文字の「(株)タカオカ」というのを手書きで「新大阪貿易株式会社」すなわち申請人と訂正したものである。

2  ところで、右条項のうち中央部の「(株)タカオカ」の部分は不動文字のままであって、申請人と訂正されていないが、これは単なる訂正漏れである。この雇用契約は、全体として、申請人における勤務条件など被申請人と申請人との関係について定めているだけであって、被申請人とタカオカとの関係についてはなにも定めていない。申請人は、被申請人の場合と同様の契約書用紙を利用して雇用契約を締結した他の従業員については、右条項中の二箇所の「(株)タカオカ」の文字を「新大阪貿易株式会社」に訂正しているが、被申請人と他の従業員との間で競業避止義務負担特約条項の内容に違いを生じさせたような事情はなく、それぞれの負担する義務の内容に変わりはない。被申請人も、申請人を退職した後に競業避止義務を負うかどうかが具体的に問題になるのは、申請人の取り扱う商品を申請人の得意先に販売することであることを認識しており、退職後に申請人に送付した書状など被申請人の作成した書面(〈証拠略〉)にはその認識を前提とした記載がある(被申請人は、その本人尋問において、申請人といっても、その実体はタカオカであって、右各書面に被申請人との営業の競合が問題になる者を申請人と記載してはいるが、これは実質的にはタカオカを意味する旨陳述している。被申請人のこの陳述は、申請人の法人格を実質的に否定するのと異ならないが、それならば、被申請人が申請人ないしタカオカの取り扱う商品を申請人の得意先に販売することはすなわちタカオカの得意先に販売することになり、その行為はいずれにしても競業避止義務負担特約に触れることになる。これは、申請人とタカオカを区別して、タカオカの営業と抵触するようなことをしなければよく、申請人の取り扱う商品を申請人の得意先に販売するようなことを禁ずる特約はないという趣旨の被申請人自身の主張とも首尾一貫しない。申請人は、その実質的な経営者がタカオカの高岡社長であるとはいえ、タカオカとは別個に独立採算によって運営している独立の企業体であり、被申請人もそのことは認識しており、右各書面はその記載のとおりに申請人と被申請人ないしリッツジャパンとの営業の競合が許されるかどうかを問題としたものと読むべきものである。)。

以上のとおり認められる。これによれば、競業避止義務負担特約は、被申請人が申請人在職中と退職後三年間に申請人の取り扱う商品を申請人の得意先に販売するなどの営業競合の行為を避止することを約したものであり、被申請人ないしその経営するリッツジャパンが右のような行為をすることは右特約に抵触することになるといえる。

二  争点二について

前記第二の一の事実と疎明(〈証拠・人証略〉、被申請人本人の一部)によれば次のとおり認められる。

1  被申請人は、申請人に入社した直後から営業課長、営業部長として営業全般を統括するほか、自らも申請人の商品の販売の業務に従事し、とくにタカオカや従来の申請人の得意先と重ならない新たな販路の開拓に力を尽くし、申請人の業績を向上させた。被申請人は、商品販売に関しては、申請人にとってきわめて有能な従業員であって、得意先からも信用されてきた。

2  被申請人は、平成元年一二月ごろ、申請人の親会社であるタカオカの代表取締役であって、申請人の実質的な経営者でもある高岡茂に対し、申請人から独立して営業したいので申請人を退職する旨申し出た。高岡その他タカオカの役職者は、この当時被申請人のほかには申請人の営業の全体を掌握する者がおらず、かつ申請人の総売上高の少なくとも七割程度は被申請人の商品販売によるものであったことなどから、極力被申請人を慰留したが、被申請人の決意は固く、結局被申請人は退職することとなった。退職にさいして高岡らが被申請人に申請人の営業と競合するような営業をしないよう確認を求めたところ、被申請人は、今までと同じような仕事はしない旨を述べたが、申請人において用意した、被申請人ないしその設立する新会社が申請人の営業と競合する営業をしないことを誓約する旨を記載した書面に署名押印することは拒んだ。しかし、被申請人の右の言葉を信頼した高岡が被申請人の右書面への署名押印の拒否をとくに問題にしなかったため、被申請人は平成二年二月二八日に円満に合意による退職をした。

3  被申請人は、申請人を退職した当日にリッツジャパンを設立して代表取締役となり、被申請人が申請人在職当時に申請人の名で取引していた申請人の得意先に対し、「新大阪貿易(株)の業務を発展的に継承すべく新会社、リッツジャパン株式会社を設立」した旨記載した、あたかも申請人が被申請人によるリッツジャパンの設立を承認してそれに申請人の営業を引き継がせるように読める「新会社設立の御案内」と題する案内状ないし挨拶状(〈証拠略〉)を送付したうえ、リッツジャパンの名で、申請人が取り扱っている別紙目録(略)記載の商品と同種の商品の販売を始め、それ以来その販売を続けている。

ところで、被申請人は、退職に先立って申請人から業務の引継ぎと在庫商品の処分をしておくよう求められていたが、業務の引継ぎに関しては得意先名簿の引継ぎをした程度で取引の具体的内容などの顧客情報を後任者に知らせることをせず、また、在庫商品に関しては、販売可能なラベル印字機(バーコードエース)、ビニール袋、フトンクロス、シール(以上の仕入価格四二一万円余、時価すなわち販売価格五七五万円余)を、リッツジャパンの商品として販売するために申請人の承諾なしに搬出し、その一部をリッツジャパンにおいて従来の申請人の得意先に販売した。

さらに、被申請人は、リッツジャパン設立と同時に、申請人において被申請人の下で勤務していた中谷千恵子をリッツジャパンに取締役として入社させた。中谷は、申請人においてなおしばらく勤務した後、平成二年三月二〇日ごろに申請人を退職した。中谷とほぼ同時に申請人の従業員である原賢吾が申請人を退職したが、被申請人はこれもリッツジャパンに入社させた。

被申請人がリッツジャパンを設立し、右のような挨拶状を申請人の得意先に発送し、申請人の在庫商品を搬出し、中谷を申請人に在職したままリッツジャパンに取締役として入社させていたといった事情は、被申請人の退職当時には申請人にもタカオカにもわからなかった(被申請人の在庫品無断搬出の事情が申請人に判明したのは、中谷の退職にさいして申請人が中谷の記帳している帳簿の記載と在庫品を照合した時であり、その後申請人が被申請人を横領で告訴するに及んで初めて、被申請人は搬出した商品の申請人における仕入価格相当の金員を申請人に支払った。)。

4  被申請人が申請人を退職した当時、申請人の従業員は被申請人、中谷、原以外には一人しかおらず、かつ被申請人が業務の引継ぎも十分に行わず、とくに被申請人の指揮監督にしたがって中谷が記帳し保管していた申請人と得意先との取引の詳細を記載した得意先台帳(得意先ごとに販売した商品の品名、ブランド名、売上単価、仕入先、仕入単価等を記帳したもの)を被申請人も中谷も引き継がなかったため、タカオカが援助して申請人の営業を継続しようとしたが、申請人において従来と同様の営業を続けることはまったく不可能となった。前記案内状の送付を受けた顧客から申請人に対して被申請人ないしその設立したリッツジャパンが申請人の従来の営業を承継するのかどうかについて問い合わせがあったさい、リッツジャパンに入社しながら申請人にまだ在職していた中谷が、被申請人の指示ないし示唆にしたがって案内状の記載は真実である旨回答するといったこともあった。

5  このように被申請人がリッツジャパンを設立して経営し、被申請人を除く申請人の従業員三名のうち二名を入社させて、リッツジャパンによって申請人の得意先に申請人が取り扱うのと同種の商品の販売をするという競業行為を継続した結果、申請人は、年間売上高が五〇万円以上の得意先をすべて被申請人ないしリッツジャパンに奪われ、通常一〇〇〇万円から一五〇〇万円程度はあった月商が一〇分の一程度に落ち込むという打撃を受けた。

以上のとおり認められる。この事実を基に被申請人が申請人に入社したさいにした競業避止義務負担特約の効力について判断する。

本件で競業避止義務負担特約が有効かどうかが問題になるのは、退職後三年間の競業避止を約した部分であるが、このような特約は、企業の従業員が在職中に職務上利用しまたは知ることのできたその企業の秘密や種々の情報を退職後に利用してその企業と競合する業務を行うことによって、その企業の利益を損なうような事態を招くことを防ぐ趣旨で、企業が従業員に約束させるものである。右のような企業防衛を目的とする特約の効力を無限定に認めると、被申請人もいうように、従業員の退職後の新たな職業、営業の選択を不当に制約してその従業員の行う公正な取引を害することにもなりかねないから、特約を有効と判断するには慎重でなければならないことはいうまでもない。

しかし、本件では、被申請人は、その能力によって開拓したとはいえ、申請人の従業員として申請人の名で申請人のために開拓した得意先に対し、申請人を退職すると同時に設立して経営しているリッツジャパンによって申請人の取り扱う商品と同種の商品を販売するという申請人と競合する営業行為をしているものであり、それも、被申請人が申請人の営業の全般を掌握する地位にいた者として申請人の企業利益の防衛に高度の責任を負っていたにもかかわらず、自己が右のような地位にいたために保持し管理していた顧客に関する詳細な情報を退職にさいして申請人にほとんど伝えず、リッツジャパンの営業のために利用し、自己以外の申請人の従業員三名のうち二名までもリッツジャパンに入社させてリッツジャパンの営業に従事させ、またリッツジャパンが申請人のそのような営業を承諾しているかのように読める虚偽の案内をし、あるいは申請人の在庫品をリッツジャパンの営業のために無断で搬出するなど、申請人の利益を損ない、商品販売における申請人の競争力を減殺し、被申請人ないしリッツジャパンに有利な状況を作り出しておいて、申請人と競合する営業をしているのである。本件で申請人が防衛すべきものとしている企業利益は、申請人の得意先ないしそれに関する顧客情報であって、特許権ないしこれに類する権利やノーハウなどほどには特別な秘密保持を必要としないものではあるが、それを従業員がその利益のために自由に利用すれば、場合によっては企業の存立にも関わりかねないこととなる点において、右特許権等の権利利益と異なることのない重要な企業利益であり、企業が合理的な範囲で従業員の在職中および退職後のその自由な利用を制約することは合理性を欠くものではないといってよい。本件のように被申請人が自己の退職後に申請人において顧客情報を利用することがほとんどできないようにしておいて申請人の得意先を奪うといった競業の行為を、その行為の申請人に対する影響がもっとも大きい退職直後の三年間に期間を限定して、特約によって禁止することは、不合理ではなく、被申請人のいう職業、営業の選択の自由や生存権を侵すものではなく、公正な取引を害するものでもないというべきである。

ところで、被申請人の主張のうちには、申請人の営業は実質的に被申請人がその独立採算によって続けてきたものであって、その得意先も実質はもともと被申請人のものというべきであり、また、被申請人が申請人を退職してリッツジャパンを設立し、右の得意先に商品を販売するようになったのは、申請人の実質的な経営者であるタカオカの高岡社長が申請人を私物化し、その収益を自己のために費消して贅沢を尽くしながら被申請人ら従業員にはほとんど配分せず、被申請人ら従業員が満足な生活もできない状態になったからであり、したがって、被申請人がリッツジャパンによって商品を販売している得意先はもともと申請人の企業防衛の目的となる利益ではなく、そのような得意先に対する商品販売の行為を特約によって禁じられるとすることは不当である旨をいうところがある。

被申請人が申請人の営業に関してきわめて有能な従業員で、その営業全般の責任者の地位にいた者であり、申請人の業績の向上に貢献してきたことは、前記のとおりであり、疎明(〈証拠・人証略〉)によれば、被申請人に対する給与の支払方法については、昭和六〇年ごろに、それまでの固定給を中心にした月給制から売上成績に応じて支給額を一年ごとに契約する年俸制に改めたことが認められるが、それにとどまり、疎明を総合しても申請人の営業が実質的に被申請人個人の独立採算による営業であると認めることはとうていできない。前記のように、申請人は親会社であるタカオカの高岡社長が実質的な経営者ではあるが、タカオカからも独立した企業体であって、被申請人はこのような独立の企業体である申請人の従業員として申請人の名で申請人のために営業してきたものであって、被申請人が申請人の得意先を開拓したといっても、その得意先を被申請人のものとし、それに関する顧客情報を自己のために利用できることになるものではない。また、高岡が豪邸その他価値の高い財産を有し恵まれた生活をしていることを示す疎明(〈証拠略〉)はあるが、疎明を総合しても、高岡がタカオカや申請人を私物化して従業員の犠牲において右のような財産形成や生活をしていることまでは認められないし、疎明(〈証拠略〉)によれば、申請人が従業員に支給する給与額がその従業員の通常の生活を維持できないほど低いものではないことが認められるから、高岡の企業経営の姿勢が被申請人の退職とリッツジャパンの設立を余儀なくさせたなどということはないといえる。いずれにしても、被申請人の右主張にそう事実は認められず、被申請人の前記のような競業の行為を競業避止義務負担特約によって禁ずることの合理性を失わせるものではない。

その他、疎明を総合しても、右特約を争点2に掲げた憲法、法律の規定に照らして無効とするのを相当とする事情は認められないから、申請人は右特約に基づいて被申請人の右競業行為の差止めを求める権利を有するといえる。

三  争点3について

前記各事実と右二の冒頭に掲げた疎明その他疎明(〈証拠略〉)と弁論の全趣旨によると、次のとおり認められ、また判断することができる。

申請人は、被申請人のリッツジャパンによる前記のような競業の行為によって、申請人の得意先のうち重要なもののほぼすべてを奪われており、被申請人が現在も継続している同様の競業の行為をこのまま本案判決が確定するまで放置しなければならないとすれば、申請人の経営を維持することをのぞみ(被申請人のいうように廃業の意思はない。)、そのための努力をしているにもかかわらず、独立の企業体として存立することが危うくなるおそれが大きいので、被申請人の競業の行為を差し止める必要がある。

被申請人がリッツジャパンによって販売している商品は、モデルの変更などの結果、申請人の取り扱う商品と同一のものは次第に少なくなってはいるが、競業避止義務負担特約によって被申請人の販売が禁止される商品は、その特約を合理的に解釈すれば、デザインや仕入先等が申請人の取り扱う商品と同一のものに限られるものでなく、素材、機能、用途、価格などの全部または一部に共通するところがあって同種の商品と認められるものであれば、例えばモデルが変わり、完成品と半製品の違いがあっても、右特約によって販売が禁止されるものである(例えば、目録3記載のパッケージのうちのビニール袋および紙袋は、種類を問わずビニール袋、紙袋のすべてを含むものでなく、申請人が取り扱っている洋服類および替ボタンその他の附属品の包装または収納用ないしそれらの販売用のものに限定されると解すべきであるが、同時に、申請人の取り扱うものと同じ種類のものであれば特約によって販売が禁止されると解すべきであり、それ以上の同一性は要求されない。)。そして、被申請人は、現在も、別紙目録(略)記載の商品と同種の商品の販売をしており、今後もそれを続けるおそれがあるから、保全の必要は失われていない。

また、申請人の従来の得意先の多くが、主文掲記の仮処分決定にもかかわらず、被申請人ないしリッツジャパンとの取引を継続する意向であるが、もともと右特約に拘束されない得意先の右のような意向によって、被申請人が特約の拘束を免れられるものではないと解すべきである。申請人としては、特約の内容を実現しようとしても、得意先に対して被申請人との取引の差止めを求める権利はなく、被申請人に対して特約に基づく義務履行として競業行為の差止めを求めることができるだけであるが、しかし同時に、得意先の意向いかんにかかわらず、被申請人が仮処分決定にしたがって自ら競業行為を止めることができないわけではなく、仮処分決定の内容である被申請人の競業行為の差止めを実現するために間接強制の方法も定められているのであり、そして本件では被申請人が競業行為を止めれば申請人が一部にしても得意先との取引を再開できることをうかがわせるような事情もあるから、被申請人の競業の行為が現在も継続している以上、保全の必要はなおあるといえる。

三  右一、二のとおり被保全権利が認められ、三のとおり保全の必要性が認められるから、申請人の本件申請は理由がある。そこで、被申請人に対して、平成五年二月末日まで、申請人が取り扱っている別紙目録記載の商品と同種の商品を、被申請人が販売し、またはリッツジャパンその他第三者に販売させることを、いずれも禁じる旨命じた主文掲記の仮処分決定を認可することとする。

(裁判官 岨野悌介)

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